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広島高等裁判所 昭和52年(ネ)133号 判決

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

被控訴人久保田は控訴人富子に対して二〇万円を、控訴人公治、同暢、同敦子に対して各六万六六五六円を支払え。

控訴人らの第二次請求中その余を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

この判決中金員支払いを命じた部分は仮に執行することができる。

事実

一、申立

1. 控訴人四名

(一)  第一次

原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。

被控訴人久保田は控訴人らに対し別紙目録二記載の土地について昭和二八年一二月三〇日広島法務局受付第三〇八一七号をもつて、同年同月二〇日付設定契約に基づいてされた地上権設定登記の抹消登記手続をし、同目録三記載の建物を収去して前記土地を明渡し、昭和四八年一二月二〇日から右土地明渡しまで控訴人富子に対して月額一万円の、その余の控訴人三名に対して各月額三三三三円の割合による金員を支払え。

被控訴人中本、同築地は控訴人らに対して前記三建物から退去せよ。

被控訴人久保田の反訴請求を棄却する。

(二)  第二次(被控訴人久保田に対する当審での新請求)

被控訴人久保田は昭和五二年一二月一日から控訴人富子に対して月額二万五〇〇〇円の、その余の控訴人三名に対して各月額八三三三円の割合による金員を支払え。

(三)  附帯的部分

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

仮執行の宣言

2. 被控訴人三名

控訴人らの本件控訴及び当審における新請求をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

控訴人らの請求が認容され仮執行宣言あるときは免脱の宣言。

二、主張

1. 控訴人らの本訴請求原因

(一)  訴外海村進は広島市猿猴橋町一四〇番一宅地一二二・四一平方メートル(以下元地という)を所有していたが、右元地は土地区画整理法による換地処分により八九・一六平方メートルに減歩となり(所在地名が同町四番七号になる)、ついで別紙目録一、二(以下一土地、二土地という)の土地に分筆された。

(二)  進は昭和二八年一二月二〇日に元地の内東側部分二分の一につき被控訴人久保田に対し建物所有の目的で地代月額一九二〇円、期間二〇年、建物を他に賃貸しない約定の地上権設定契約を締結した。

(三)  被控訴人久保田は右東半の地上に建物を所有していたが、昭和三一年三月二七日に仮換地指定にともない当事者間で仮換地の東半(二土地に相当する)を地上権の対象に改める旨合意が成立し、二土地上に別紙目録三建物を所有している。

(四)  進は昭和三二年八月三一日に死亡し、その妻控訴人富子及びその子であるその他の控訴人三名と承継前の控訴人海村和子が進を相続し、ついで和子は昭和五二年五月二日に死亡して控訴人富子が同人を相続し、控訴人らが前記権利、地位を承継した(持分は控訴人富子が六分の三、その他の控訴人らが各六分の一になる)。

(五)  ところが、被控訴人久保田は三建物の一部を被控訴人中本及び承継前の被控訴人築地タマノ(以下被控訴人タマノと略称し、昭和五三年一月一八日に死亡して被控訴人築地が相続した)に賃貸し、右被控訴人両名は右建物に居住等して敷地を占有している。

(六)  控訴人らは昭和四八年六月二八日付書面で被控訴人久保田に対し借地契約更新の拒絶をし、これについては以下のように正当事由があるので、期間満了により、同被控訴人の地上権は消滅した。すなわち、控訴人方では控訴人富子所有の四階建建物に住んで、質商を営んでいるが、夜間営業の必要から住居を別にすることはできず、質物の大型化により右建物だけでは手狭になり、隣接する他の店舗を借受けている上、控訴人暢の独立営業を期しているため、本件土地を必要とする。他方被控訴人らは広島市内及び周辺に土地建物を所有して、質商、金融業を営むかたわら本件建物で古物商を営んでいるに過ぎない。

なお、右のような事情で、被控訴人久保田が本件土地の明渡しを拒むことは権利濫用にも該当する。

(七)  被控訴人久保田は前記地上権について申立欄第一次分記載の地上権設定登記を経ており、二土地の昭和四八年一二月当時の地代相当額は月額二万円である。

(八)  そこで、被控訴人久保田に対しては前記登記抹消、三建物収去と二土地の明渡し、昭和四八年一二月二〇日から右明渡しまで月額二万円(控訴人富子分一万円、他の控訴人分各三三三三円)の支払いを求め、被控訴人中本、同築地に対しては右建物からの退去を求める。

(九)  前記期間満了による地上権の消滅が認められないときは、本訴(昭和四九年二月二二日の訴状送達による)において被控訴人久保田の特約違背((五)の建物賃貸)を理由として借地契約を解除する。

(一〇)  仮に(六)記載の事実だけでは正当事由とするに足りないとすれば立退料として一五〇〇万円程度の金員を支払う用意があるので、建物収去土地明渡しにつき裁判所の定める額の金員の支払いに応ずる(昭和五〇年一〇月二二日付準備書面の同月二四日送達による)。

(一一)  以上の借地権終了の主張がすべて認められないで被控訴人久保田との間の本件借地契約が存続するとすれば、二土地の約定地代月額一万円は不相当に低いので、本訴(昭和五二年一一月二二日付準備書面による)における月額五万円に増額する旨の意思表示により、同年一二月分から相当額である右額に変更されたことになり、その支払(控訴人富子二万五〇〇〇円、他の控訴人分各八三三三円となる)を求める。

2. 被控訴人らの本訴答弁

(一)  請求原因中(一)、(三)のうち仮換地指定、(四)、(五)及び(二)のうち約定地代月額が一万円であることは認める。

(二)  同(二)に関し被控訴人久保田が控訴人ら主張の時期、地代によつて海村進と地上権設定契約をしたことは認めるが、他の約定は争う。借受土地は元地全体で、二〇年は地代据置期間の趣旨であり、建物賃貸禁止の特約はない。

(三)  同被控訴人の建物は元地全体に存在していたが、仮換地指定に従い、その東半(二土地に当る)に三建物を改築し、西半については解約したものである。

(四)  仮に借地期間二〇年の約定であつたとしても、期間満了により当然更新する特約があつた。

(五)  また、被控訴人久保田は昭和四八年一二月一日付書面で控訴人らに借地契約の更新請求をし、借地期間経過後も土地使用を継続している。

(六)  同(六)につき更新拒絶に正当事由があることは争う。控訴人方の建物における営業、店舗借受と被控訴人久保田の土地、建物所有と営業、同被控訴人の妻と被控訴人中本、同タマノの本件建物における営業は認めるが、他は否認する。

控訴人方では昭和四〇年一二月頃広島市光が丘四番六号に木造瓦葺二階建居宅一四七・八二平方メートルを取得し、控訴人公治は他に転出していたものを、わざわざ昭和四六年三月一五日に帰来している。被控訴人らの古物営業は二〇年の長期間継続しているもので、本件建物を中心として「のれん」ができており、被控訴人中本は本件建物の二階に居住している。

(七)  同(七)、(二)に関して昭和四八年一二月当時及び昭和五二年一二月当時の二土地の地代相当額は否認する。

3. 被控訴人久保田の反訴請求原因

(一)  被控訴人久保田は、本訴で主張する経緯によつて、本件土地についての昭和二八年締結の借地契約の更新により、期間昭和四八年一二月二一日から二〇年、建物所有を目的とする地上権を有している。

(二)  ところが、控訴人がこれを争うので、その確認を求める。

4. 控訴人らの被控訴人ら主張事実に対する答弁

2.(六)後段に関し、光が丘の建物取得、控訴人公治の転出入、被控訴人中本の居住は認める。

しかし、右転出入は租税対策のため、住民登録の上で操作したものに過ぎない。

三、証拠(省略)

理由

一、訴外海村進が元地(広島市猿猴橋町一四〇番の一地)を所有し、昭和二八年一二月二〇日に右土地(全部か、一部かについては別とする)を被控訴人久保田に地代月額一九二〇円とし、建物所有の目的で地上権設定契約をしたこと、右土地は換地処分及び分筆により現在一、二土地となり、昭和三一月三月二七日以降は地上権の対象地が二土地の範囲となつたこと、進及びその子の海村和子の死亡、相続により控訴人富子が六分の三、その余の控訴人三名が各六分の一の割合で二土地を共有し、借地契約上の貸主としての地位にあることは当事者間に争いがない。

二、成立に争いない甲第三、四号証によれば、前記借地契約の存続期間は借地契約締結日から二〇年間であり、地上建物を他に賃貸することは、書面による承諾がない限り、禁止する旨の特約のあつたことが認められ、原審証人田中稲城の証言中右認定と相違し、二〇年は地代据置期間の趣旨であり、借地期間については当然更新される約定であつた、との部分は信用しがたい。

三、控訴人らが期間満了に先立つ昭和四八年六月二八日付書面で被控訴人久保田に本件借地契約の更新拒絶の申入をし、同被控訴人が同年一二月一日付書面で控訴人らに対し更新方の申入れをしたことは明らかに争いのないところであるので、右更新拒絶につき正当事由があるか、否かについて検討する。

控訴人富子の四階建建物所有と同所における質商営業、控訴人方の光が丘建物の取得、隣接店舗の借受け、被控訴人久保田の土地、建物所有と営業、被控訴人中本、同タマノの本件建物の賃借と営業及び前者の居住、被控訴人久保田の妻の同所における営業は当事者間に争いがない。

成立に争いない甲第一一号証、第一二号証の一ないし三、乙第八、九号証、原審における控訴人富子本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第一三号証と原審及び当審における被控訴人三名(被控訴人築地は原審では証人としてであるが便宜本人として記す)、当審における控訴人公治本人尋問並びに原審検証の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1. 控訴人富子の建物は一土地上の建坪三七・五二平方メートルのものであり、同控訴人は控訴人公治と光が丘建物敷地二四〇・八五平方メートルを共有している。

2. 控訴人方の家族構成は右控訴人両名と控訴人暢、控訴人公治の妻と二子及び海村和子からなり、家族で有限会社三益商事を設立して営業しているもので、四階建物を営業及び住居用、光が丘建物は住居用としているが、前者が手狭であるため、猿猴橋町四番七号地上の建物の一部約一〇坪を月額八万円の賃料で借受けて、質流れ品の処分をしている。

3. 被控訴人久保田の土地、建物は広島市流川町七番地二にある二階建居宅兼店舗であり、その一部を梶川洋服店に賃料月額一万五〇〇〇円で、万喜商事に同二万五〇〇〇円で賃貸し、残部で自ら営業をしている。

4. 被控訴人中本、同タマノは二〇年近く本件建物で営業しており、被控訴人築地は広島市吉島町に宅地建物を所有して、質屋を営んでいる。

以上の事実関係を総合検討するとき、控訴人側の二土地の必要性は肯定できるが、借地上建物の賃借人を含めた借地人側の事情にも軽視できないものがあり、本件更新拒絶につき正当事由が備わつたものと認めるに足りない。

この点について、控訴人らは本訴係属中の昭和五〇年一〇月に至つて、立退料一五〇〇万円程度の裁判所の定める額の支払いをもつて正当事由を補完する意向を示したが、借地期間満了時に正当事由がない場合には、前契約と同一内容の借地契約に更新されることになるものであるから、右時期から満二年近く経過した段階においては、たとい更新の有無に関連した借地明渡訴訟が係属している本件のような場合にも既に時期を失したものとして、右のような補完は許されないものと解するのが相当である。この点は賃貸期間の定めのない借家契約の解約における正当事由の有無を判断する基準時とは相違する。なお、控訴人らは、借地契約当事者間の事情により被控訴人久保田が土地明渡しを拒絶することが権利の濫用に当り許されない、と主張するが、この点も採用しがたい。

四、次に控訴人らの特約違反を理由とする借地契約解除の主張をみることとする。

本件借地契約につき借地人が地上建物を賃貸することを制限する特約があつたこと、被控訴人久保田が被控訴人中本らに右地上建物の一部を賃貸したことは二、三、二段記載のとおりであり、被控訴人らから右賃貸に際し海村進の書面による承諾があつたことの主張、立証がないので、被控訴人久保田はこれにより右特約に違反したことになる。

しかし、借地人が借地契約に違反した場合においても、それが当事者間の借地関係を継続することを相当としない程の背信行為に当らない場合は借地契約の解除事由とすることはできない、と解するのが相当であるところ、前記建物の一部賃貸は右程度には達しない、と認められるので、これを理由とする控訴人らの借地契約解除の主張は、他の点を判断するまでもなく採用できない。

五、そうすると、控訴人らの第一次申立は理由がないことになり、二土地に関する借地契約は期間満了により更新し、控訴人らと被控訴人久保田間で昭和四八年一二月二一日から二〇年間を期間として建物所有を目的として継続したことになる。

六、控訴人らは本訴(昭和五二年一一月二二日付準備書面による)で地代増額の意思表示をしているので、この点を考察する。

当時の二土地の約定地代が月額一万円であることは当事者間に争いがなく、当審における被控訴人久保田本人尋問及び鑑定人森嶋久雄の鑑定の結果によれば、本件二土地の地代は昭和四五年に前記月額一万円に改訂せられ、昭和五二年末頃の相当地代は月額二万五〇〇〇円であることが認められるので、控訴人らの前記意思表示により右地代は同年一二月分から二万五〇〇〇円に増額されたものというべきである。

本件借地契約についての地代支払時期については、特段の主張がないので民法六一四条本文により毎月末を弁済期とし、被控訴人久保田から右支払等の主張がないので、同被控訴人は昭和五二年一二月一日から昭和五四年三月三一日(当審口頭弁論終結日の属する月の前月末日)まで月額二万五〇〇〇円(控訴人富子については持分六分の三に当る一万二五〇〇円、他の控訴人三名については各六分の一に当る四一六六円)の割合による地代(前者が二〇万円、後者が六万六六五六円になる)を支払う義務がある(なお、控訴人らの申立は終期を定めないものであるが、弁済期未到来の分を求める必要性は認められない)。

七、被控訴人久保田の地上権確認反訴請求は、以上説示の次第で、理由があるので認容すべきである。

八、以上の次第で、原審が控訴人らの第一次の請求を棄却し、被控訴人久保田の反訴請求を認容したのはいずれも相当であるから本件控訴を棄却し、控訴人らの当審における第二次請求は前記六、末段の範囲で認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九二条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条(仮執行免脱の宣言は相当でないので申立を却下する)を各適用して、主文のとおり判決する。

別紙

目録

一、広島市猿猴橋町四番七 宅地四四・六〇平方メートル

二、同所四番二七     同 四四・五五平方メートル

三、同所四番地七 家屋番号四番七の一

木造瓦葺二階建居宅兼店舗

床面積一、二階とも三九・四七平方メートル

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